親のスマホが開けない…デジタル遺品の探し方と、サブスク・ネット口座の止め方
実家の片付けで最後に残るのが親のスマホとパソコン。国民生活センターの相談事例をもとに、デジタル遺品の探し方、止める順番、ネット銀行や携帯回線の扱い、親が元気なうちにできる三つの備えを整理します。

実家の片付けは、物さえ運び出せば終わりそうに見えます。ところが最後に必ず残るのが、親のスマートフォンとパソコンです。中身が見られないので捨てられない。かといって置いておいても、毎月どこかから引き落としだけが続く。手が止まるのはたいていこの一点です。
国民生活センターは2024年11月、「今から考えておきたい『デジタル終活』」という報道発表を出しています。副題は「スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために」。まさにこの場面のことです。この記事では、親のスマホやパソコンに残ったもの(いわゆるデジタル遺品)を、どういう順番で探し、どういう順番で止めるのかを整理します。
デジタル遺品とは、要するに「画面の向こうにある契約と財産」
デジタル遺品という言葉に決まった定義はありませんが、家族が実際に困るのは次の三つです。
- お金が出ていくもの──動画や音楽の定額サービス、セキュリティソフト、通信回線、クラウドの保存容量、新聞や雑誌の電子版
- お金が入っているもの──ネット銀行、ネット証券、コード決済の残高、電子マネー、暗号資産、ポイント
- お金ではないが消せないもの──写真、メール、会員サイト、交流サイトのアカウント
やっかいなのは、この三つとも通帳も契約書も届かないことです。紙が家にないので、片付けをしていても存在に気づけません。国民生活センターが「見えない契約」と呼んでいるのはこのためです。
もうひとつ押さえておきたいのは、ネット銀行やネット証券の残高が、当然ながら相続財産になるということです。国税庁は相続税のかかる財産を「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」と説明しています。画面の中にしかなくても、財産は財産です。見落としたまま手続きを終えると、あとからやり直しになります。
実際に寄せられている相談は、この三つの形をしている
国民生活センターの報道発表に載っている相談事例は、どれも身に覚えのある形をしています。
- 亡くなった家族が使っていたネット銀行の手続きをしたいが、スマホが開けず、そもそもどこの銀行と契約していたのかがわからない(60歳代男性)
- コード決済サービスの相続手続きが、1か月以上たっても終わらない(50歳代女性)
- 契約していた定額サービスの請求を止めたいが、利用者名とパスワードがわからない(80歳代女性)
同じ発表によると、スマートフォンの利用率は60代で78.3%、70代で49.4%。親の世代がすでに当たり前に使っている以上、この相談はこれから増えます。

まず知っておくこと:携帯会社はロック解除をしてくれない
いちばん多い誤解がここです。「携帯ショップに持っていけば開けてもらえるだろう」と考えて持ち込み、断られてから困りはじめる、という順番をたどる方がとても多い。
国民生活センターの見守り新鮮情報にも、家族がロック解除を携帯電話会社に依頼したところ「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と言われ、中身を確認できなかった事例が載っています。初期化すれば当然、中のデータは消えます。解除は原則としてできない、と考えて動いたほうが早いというのが実際のところです。
民間のデータ復旧業者に依頼する道もありますが、機種や状態によって可否が分かれ、費用も数万円台から十数万円台まで幅があります。結果が出なくても調査費がかかる場合があるので、依頼前に「開けられなかったときいくらかかるのか」を必ず確認してください。金額や条件は依頼先によって違います。
探す順番──スマホを開けなくても、たどれる道はある
スマホが開かないとお手上げのように思えますが、順番を変えると意外に進みます。
1.紙の手がかりを先に集める
片付けの最中に出てくる書類のうち、クレジットカードの利用明細、預金通帳、確定申告の控えは最優先で確保してください。毎月同じ金額が同じ相手に出ていれば、それが契約中のサービスです。ネット銀行も、他の口座との資金移動の記録から見つかることがあります。
2.郵便物とメールの受信箱を見る
紙の通知は来なくても、年に一度の案内や利用規約の変更だけは届くことがあります。パソコンのメールソフトが開ける場合は、受信箱を「領収」「ご利用」「更新」といった言葉で検索すると、契約先の一覧に近いものが出てきます。
3.パソコンのブラウザに残った履歴を見る
スマホが開けなくても、同じ人が使っていたパソコンなら開けることがあります。よく見るサイトの一覧や保存されたお気に入りは、契約先の手がかりになります。
4.スマホは「画面を見るだけ」でも収穫がある
ロックが解除できなくても、ホーム画面に並ぶアプリの名前や、画面に出る通知だけは見えることがあります。どの銀行、どの決済サービスを使っていたかがわかれば、あとはその会社に直接連絡すれば手続きに進めます。
5.わかった契約先には、会社ごとに連絡する
親のパスワードを突き止める必要はありません。多くの会社は、亡くなったことを伝えれば、戸籍などの書類で本人確認をしたうえで解約や相続の手続きに応じます。遠回りに見えて、これがいちばん確実です。
止める順番と、止め方が違うもの
見つけた契約は、性質によって扱いが変わります。
| 種類 | 扱い | 注意 |
|---|---|---|
| 定額サービス | 解約の手続きをしないと止まらない | 放置しても自動では終わらない。請求は続く |
| 携帯電話の回線 | 解約のほか「承継」も選べる | 承継は家族が契約を引き継ぐ形。電話番号や利用期間を残せる |
| ネット銀行・ネット証券 | 相続の手続き | 解約ではなく相続。残高は相続財産になる |
| コード決済・電子マネー | 会社ごとに手続きが違う | 残高が引き継げるかは会社による。時間がかかることがある |
| 交流サイト・写真の保存 | 削除または追悼の設定 | 急がなくてよい。消すと戻せないので最後に |
携帯回線の「承継」は知られていない選択肢です。NTTドコモの場合、店頭での手続きで、戸籍謄(抄)本は写しでも可、手数料は無料と案内されています。家族が番号を引き継ぎたいとき、いったん解約してしまうと戻せません。止める前に、残したい番号がないかを家族で確認してください。手続きの詳細は契約している会社によって違うので、各社の案内で確認を。
急がなくていいもの──10年たつと「休眠預金」になる、その中身
ネット銀行の口座が見つからないまま時間が過ぎると心配になりますが、預金がなくなるわけではありません。預金保険機構の説明では、最後の入出金などから10年以上動きのない預金等は休眠預金等として扱われ、9年を過ぎた時点で残高が1万円以上あれば金融機関から通知が届きます。そして休眠預金等になったあとも、取引のあった金融機関で引き出せます。
つまり、探しきれていない口座があっても、消えてしまうわけではない。焦って手当たり次第に手続きするより、相続の全体像が固まってから落ち着いて進めたほうが結果的に早く終わります。
親が元気なうちにできる、三つの備え
ここまでは「起きてしまったあと」の話です。まだ親が元気なら、やっておくと家族の負担が大きく変わることが三つあります。
1.「スマホのスペアキー」をつくる
国民生活センターが勧めているのは、名刺くらいの紙に解除方法を書き、修正テープなどで覆った「スマホのスペアキー」を作って、家族が見つけられる場所に置いておく方法です。パスワードをそのまま家族に教えるのではなく、いざというときだけ開けられる状態にしておく、という考え方です。通帳や印鑑と一緒にしておけば、片付けのときに必ず目に入ります。
2.端末そのものの「もしも」の設定を使う
いまは、親自身が生前に設定しておける仕組みがあります。Appleの「故人アカウント管理連絡先」は、あらかじめ指定した人が、アクセスキーと死亡の記載がある戸籍謄本などを示すことで、写真やメッセージ、バックアップにアクセスできるようになるものです。iOS 15.2以降で設定でき、複数人を指名できます。Googleの「アカウント無効化管理ツール」は、一定期間アカウントが使われなかったときに、最大10人まで指定した相手に通知やデータの共有をする仕組みです。どちらも設定は本人しかできません。帰省したときに、親のスマホで一緒に設定してしまうのがいちばん確実です。
3.契約の一覧だけでも紙に残す
金額まで書く必要はありません。「どこと契約しているか」の名前だけで、家族の手間は劇的に減ります。エンディングノートでも、封筒に入れたメモ書きでもかまいません。大事なのは、家族が探す場所にあることです。
親にどう切り出すか
「万が一のときのために」と切り出すと身構えられます。実際に話が進みやすいのは、親自身が困る場面から入る言い方です。「スマホを落としたり壊れたりしたとき、中の写真が取り出せなくなるらしいよ」「使っていない月額サービスがないか、一緒に見てみない?」。使っていないサービスを解約すれば、その場で毎月の支払いが減ります。親にとっても得になる話なので、終活の話より受け入れられやすい。
片付けと同じで、デジタル遺品も全部を一度に片づけようとしないことです。まずお金が出ていくものを止める。財産は相続の手続きに載せる。思い出は最後に、時間をかけて。この順番であれば、途中で手が止まりません。
本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、医療・法律・税務・不動産取引などの個別の判断に関する助言ではありません。制度・費用は地域や時期により異なります。実際のご判断は、自治体および各分野の専門家にご相談ください。