冬の実家のお風呂が心配…高齢の親のヒートショックを防ぐ準備と、離れて暮らす家族の声かけ
冬の入浴中の事故は、高齢者では交通事故の2倍以上。脱衣所と浴室を先に暖める、湯温41度以下・10分まで、手すりの見直しなど、寒くなる前に実家でできる準備と、離れて暮らす家族の声かけを公的な情報をもとに整理します。

朝晩の空気が冷たくなってくると、離れて暮らす親のお風呂が気になり始めます。「長湯をしていないか」「脱衣所が寒いままではないか」と思っても、電話で聞けるのはせいぜい「ちゃんと温まってる?」くらいで、実際の様子はなかなか見えません。
冬の入浴中の事故は、高齢の親がいる家庭にとって、交通事故よりも身近な危険です。しかも、事故の多くは家の中の「温度差」と「入り方」が重なって起きるので、家族が事前に手を打てる部分がたくさんあります。この記事では、公的な機関が呼びかけている内容をもとに、寒くなる前に実家で見直したいことと、離れていてもできる声かけを順番に整理します。
冬の入浴中の事故は、交通事故の2倍以上
消費者庁によると、令和4年(2022年)に家や居住施設の浴槽で亡くなった65歳以上の方は5,824人でした。同じ年に交通事故で亡くなった高齢者は2,154人なので、浴槽での死亡はその2倍を超えています。家の浴槽での死亡は、平成19年の2,985人から平成28年には6,759人へと、10年ほどで大きく増えた時期もありました。
さらに、浴槽での溺死として数えられるものだけでなく、入浴中に体調が急変して亡くなる「入浴中の急死」は、病死なども含めると全国で年間約19,000人と推計されています(消費者庁の資料が紹介している推計値です)。
季節ははっきり冬に偏っています。消費者庁の資料では、11月から3月にかけて年間の事故の約7割が起きているとされ、東京消防庁の救急搬送のデータでも、入浴中に「おぼれる」事故は冬場に多くなっています。搬送された方の約9割が重症以上と診断されているという点も、軽く見てはいけない理由です。
| 項目 | 数字 | 出どころ |
|---|---|---|
| 家・居住施設の浴槽で亡くなった65歳以上 | 5,824人(令和4年) | 消費者庁 |
| 交通事故で亡くなった高齢者 | 2,154人(令和4年) | 消費者庁 |
| 入浴中の急死(病死等を含む推計) | 年間約19,000人 | 消費者庁の資料で紹介 |
| 11月〜3月に起きる割合 | 年間の約7割 | 消費者庁 |
10月の今は、ちょうど「事故が増える季節の手前」です。寒くなってから慌てて暖房器具を探すより、帰省や電話の機会がある今のうちに準備しておくのがいちばん効きます。
なぜ冬のお風呂が危ないのか ── 温度差と「のぼせ」
冬の入浴で起きる体調の急変は、一般に「ヒートショック」と呼ばれます。暖かい居間から寒い脱衣所に移り、服を脱いで冷えた浴室に入ると、体は熱を逃がさないように血管を縮め、血圧が上がります。そこから熱いお湯につかると、今度は血管が広がって血圧が下がります。この短い時間の大きな上下が、体に負担をかけます。
もうひとつ見落とされがちなのが、お湯につかりすぎることによる「のぼせ」です。熱いお湯に長くつかると体温が上がりすぎ、意識がぼんやりして、そのまま浴槽の中でおぼれてしまうことがあります。湯船から急に立ち上がったときに、立ちくらみで倒れることもあります。
東京都の資料でも、冬の脱衣所や浴室は居室との温度差が大きく、脳出血や心筋梗塞などが起きやすいとして、脱衣所に暖房器具を置いて暖めておくこと、お湯をぬるめにすることが呼びかけられています。つまり対策の中心は、「温度差を小さくすること」と「熱すぎ・長すぎを避けること」の2つです。
実家で見直したい「入る前」の準備
消費者庁が高齢者の入浴について呼びかけている対策は、どれも特別な道具がなくても始められるものです。まず「お風呂に入る前」にできることから見ていきます。
脱衣所と浴室を先に暖めておく
いちばん効くのは、入る前に脱衣所と浴室を暖めておくことです。脱衣所には小型の暖房器具を置き、浴室はお湯をためるときに高い位置からシャワーで給湯する、ふたを開けておいて湯気で暖める、といった方法があります。浴室暖房乾燥機がついている家なら、入浴の少し前に暖房を入れておくだけでも違います。
ただし、脱衣所の暖房器具は置き方に注意が必要です。タオルや衣類が近くにあると火災の原因になるので、転倒しても自動で止まるもの、熱くなりにくいものを選び、洗濯かごやバスマットから離して置きます。古い石油ストーブや電気ストーブがしまってある実家なら、今年も使えるか、コードが傷んでいないかも見ておきたいところです。
食後すぐ・お酒のあと・薬を飲んだ直後は避ける
食事の直後やお酒を飲んだあとは、血圧が下がりやすくなっています。また、精神安定剤や睡眠薬などを飲んだあとの入浴も控えるよう呼びかけられています。「夕食のあとにすぐお風呂」「晩酌をしてからお風呂」が長年の習慣になっている親は多いので、入る時間を少しずらすだけでも危険は減ります。
入る前に水分をとり、家族にひと声かける
入浴では思っている以上に汗をかきます。入る前にコップ1杯の水やお茶を飲む習慣をつけてもらうとよいでしょう。そして同居の家族がいる場合は、「今からお風呂に入るね」とひと声かけてもらうことです。声をかけられた側が、時間を見て様子を見に行けるからです。
「入ってから」気をつけたいこと
お風呂に入ってからの目安として、消費者庁は「湯温は41度以下、湯につかる時間は10分まで」を挙げています。熱いお湯が好きな親には物足りないかもしれませんが、温度と時間の両方に上限を決めておくことが大切です。
| 場面 | 目安・気をつけること |
|---|---|
| お湯の温度 | 41度以下 |
| 湯につかる時間 | 10分まで |
| 湯船から出るとき | 急に立ち上がらず、手すりや浴槽のふちにつかまってゆっくり |
| 体を洗う順番 | いきなり湯船に入らず、かけ湯で体を慣らしてから |
| 同居の家族 | 入浴中はこまめに声をかける |
給湯器の設定温度を41度にしておく、キッチンタイマーや防水の時計を浴室に置いておく、といった「仕組み」で守れるようにしておくと、本人の気をつけ方に頼らずにすみます。追いだきで温度が上がりすぎることもあるので、湯船の温度計があると安心です。
浴槽から立ち上がるときの立ちくらみは、ヒートショックやのぼせと並んで多い原因です。浴槽のふちや壁に手すりがない場合は、次の章で紹介する住宅改修や福祉用具も検討してみてください。

手すり・滑りにくい床・浴槽の段差を見直す
温度差への対策と合わせて考えたいのが、浴室そのものの危なさです。濡れた床で滑る、浴槽をまたぐときにつまずく、立ち上がるときにつかまる場所がない、といった点は、冬に限らず一年中の危険です。東京都の資料でも、必要に応じて手すりをつけること、床材を濡れても滑りにくいものにすることが挙げられています。
親が要介護・要支援の認定を受けている場合は、介護保険を使える可能性があります。代表的なのは次の2つです。
- 住宅改修 ── 手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更などが対象。支給の限度は1人あたり20万円まで(そのうち自己負担は所得に応じて1〜3割)。工事の前に市区町村への申請が必要です
- 福祉用具の購入 ── シャワーチェア(入浴用のいす)、浴槽内のいす、浴槽のふちに取り付ける手すりなど、入浴を助ける用具。年間10万円までが対象で、同じく自己負担は1〜3割です
どちらも、ケアマネジャーに相談するのが近道です。工事をしてから申請しても対象にならないことがあるので、「先に相談、あとから工事」の順番を守ってください。認定を受けていない場合でも、自治体によっては高齢者向けの住宅改修の助成を設けていることがあります。費用は工事の内容や家の状態で大きく変わるため、複数の業者に見積もりを取り、依頼先に確認してから決めるのが安心です。
家全体の寒さを根本から和らげたいなら、窓の内側にもう1枚窓をつける内窓や、浴室の断熱改修も選択肢になります。国や自治体が断熱改修に補助を出している年もあるので、実家のある市区町村のホームページで確認してみるとよいでしょう。ただし大がかりな工事になるので、まずは脱衣所の暖房と手すりといった、すぐにできることから始めるのが現実的です。
浴室以外の家まわりの見直しについては、実家のバリアフリーの記事や、親が家で転んだときの記事も参考になります。
離れて暮らす家族ができる見守りと声かけ
一人暮らしの親の場合、「入浴中に誰かが声をかける」ことができません。だからこそ、家族が離れていてもできる工夫を組み合わせておきます。
入浴の時間帯を決めておく
「お風呂は夕方の明るいうち、家の中がまだ暖かい時間に」と決めておくと、夜遅くの冷え込んだ時間の入浴を避けられます。日中は家の中との温度差も小さくなりがちです。電話をする時間を入浴のあとに決めておけば、「お風呂から出たよ」の連絡が自然な安否確認になります。
帰省のときに見ておきたいこと
- 脱衣所に暖房器具があるか。あるなら、タオルや衣類の近くに置いていないか
- 給湯器の設定温度が42度以上になっていないか
- 浴槽のふちや壁につかまれる場所があるか
- 浴室の床やバスマットが滑りやすくなっていないか
- 夕食後すぐ・晩酌のあとに入る習慣がないか
- 浴室のドアが内側から開けにくくなっていないか(倒れたときに外から開けられるか)
帰省のときに家の様子を確かめるポイントは、帰省で見ておきたい暮らしのサインの記事にもまとめています。
一人での入浴が不安になってきたら
足腰が弱ってきた、湯船をまたぐのが怖いと言い出した、といった変化があれば、自宅での入浴だけにこだわらない方法もあります。デイサービスでの入浴や訪問入浴など、介護サービスを使ったお風呂の頼み方は、親の入浴が心配なときの記事で詳しく紹介しています。
もしもの時に慌てないために
入浴中にぐったりしている、おぼれているのを見つけた場合について、消費者庁は「浴槽の栓を抜き、可能な範囲で救出や応急手当を」と呼びかけています。顔がお湯につかったままにならないようにしたうえで、ためらわずに119番に通報し、電話口の指示に従って対応してください。
離れて暮らす家族が慌てずにすむよう、次のことも事前に決めておくと安心です。
- 近所に住む親族や知人で、すぐに駆けつけてもらえる人は誰か
- 実家の合鍵を誰が持っているか
- かかりつけの医療機関と、服用している薬の一覧がどこにあるか
- 電話がつながらないとき、何時間たったら誰が様子を見に行くか
救急車を呼ぶか迷うような体調の変化には、地域によっては救急相談の電話窓口(#7119など)が使えます。実家の地域で使えるかどうかは、総務省消防庁や自治体のホームページで確認しておきましょう。
本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、医療・法律・税務・不動産取引などの個別の判断に関する助言ではありません。制度・費用は地域や時期により異なります。実際のご判断は、自治体および各分野の専門家にご相談ください。